フリーランスは基本的に私服、在宅の場合は部屋着でそのまま作業している方も多いでしょう。しかしたまにクライアントとの打ち合わせでスーツが必要になる、なんてこともあるかもしれません。そこで、スーツを経費にできるのかどうかケースごとに解説していきます。
スーツの経費計上は緩和傾向にある
従来までは、スーツは経費にできない出費の代表的なものでした。理由としては、昭和49年の判例を引きずっていたからです。この判例では「スーツが業務上必要な部分」を明確に示せなかったため、経費と認められませんでした。
というのも、スーツは冠婚葬祭やプライベートな会合などでも使えるもので、仕事のみで使うものではないからです。スーツは家事関連費(プライベートと仕事の両方で利用するもの)なので家事按分(仕事で使う割合のみ経費にする)できると考えられますが、その割合の決定が難しいため、経費とは認めないということです。
この判例を引きずっていたため以降もスーツが経費と認められないことが多かったのですが、状況は変わりつつあります。理由としては、平成26年に「特定支出控除」の見直しがあったからです。
特定支出控除とは、「会社員が自費で購入したスーツや書籍を業務に必要なものと証明できれば経費として認められ、控除対象にできる」というものです。対象は会社員なのですが、フリーランスに関係がないわけではありません。なぜなら、会社員だけを優遇してフリーランスを冷遇するのは不平等だからです。
特定支出控除の項目は、もともと以下のようになっていました。
1.通勤費
2.転勤費用
3.仕事に必要な研修費用
4.仕事に必要な資格取得費用
5.単身赴任で勤務地から自宅へ帰るための交通費
平成26年の見直しで、ここにさらに3項目追加されました。
6.仕事に必要な書籍や新聞など図書の購入費用(図書費)
7.仕事で必要な衣服の購入費用(衣服費)
8.得意先などを接待するための費用(交際費)
衣服費の項目が追加されたことが特に重要で、その結果スーツが一部経費として認められるケースが増えました。
スーツはどこまで経費として認められるのか
以前までほとんど認められなかったスーツの経費化ですが、ここではどのくらい認められるようになったのかを紹介します。またフリーランスの場合オフィスカジュアルやカジュアル服を仕事着にするケースも多いはずなので、それについても紹介しておきます。
衣服費 | 以前まで | 特定支出控除見直し以降 |
スーツ | ほとんど認められない | 家事按分で認められる |
オフィスカジュアル | ほとんど認められない | ほとんど認められない |
カジュアル服 | ほぼ100%認められない | ほぼ100%認められない |
作業着 (調理場の制服など) |
ほぼ認められる | ほぼ認められる |
スーツは緩和傾向
特定支出控除の見直しで衣服費の経費化に影響がありましたが、影響の範囲はあくまでもスーツだけです。スーツに関しては家事按分が認められるようになってきており、たとえばスーツを着用する日数全体の8割程度は仕事なので、8割を経費計上する、といったことが認められるケースもあります。
ただし残念ながら適正な割合や経費として認められる方法を明確に断言することはできず、税務署の担当者によっても左右されるような曖昧な部分ではあります。また仮に税理士に相談したとしても、経費にはしないように言われるかもしれません。
そのくらい曖昧ではあるものの、制度緩和により経費にできる可能性がある、くらいに捉えておくと良いでしょう。試してみる価値はあります。
オフィスカジュアルは認められない
今後オフィスカジュアルに関しても緩和される可能性がないわけではありませんが、現状経費にするのは難しいでしょう。
理由としては、オフィスカジュアルはスーツよりもより一層プライベートで使用することができるからです。仮に本当に仕事でしか着ていなかったとしても、たとえば少し良い店にプライベートで着ていくことはないのか、などの突っ込みが予測できます。
つまり、事実だけでなく税務署から見た客観的な納得感、常識なども重要になるのです。
カジュアル服も当然認められない
カジュアル服に関しては、今後も経費にするのはほぼ不可能でしょう。自分の中で仕事用とプライベート用を分けていたとしても、客観的な納得感が少なすぎます。常識的に考えるとカジュアル服は仕事用とプライベート用であまり区別しないと思われるからです。
またカジュアル服を経費にすることを認めると、すべての衣服を経費にできてしまうことになります。そんなことになると税収が大幅に減るので、今後も認められないでしょう。
作業着は認められる
作業着に関しては、特定支出控除の見直し前から経費として認められることがほとんどでした。それは今後も変わらないでしょう。理由としては、作業着はプライベートで着ることがないからです。
スーツを経費にする際の注意点
スーツを経費にする際には注意点があり、それは以下になります。
- 高すぎるスーツを経費にするのは難しい
- 100%経費にするのは難しい
まず、高すぎるスーツに関しては必要不可欠なものと認められない可能性が高いです。経費というのは事業に必要な出費のことですが、高いスーツを着なければならない業務は限られています。
特に白色申告では10万円を超えると「消耗品」で計上できなくなりますが、青色申告でも10万円を超えると税務署に突っ込まれる可能性が高くなるでしょう。高級スーツの購入はあくまでも個人的な趣味趣向と捉えられるからです。
次に、10万円未満のスーツであっても100%経費にするのは難しいです。スーツは家事関連費(プライベートと仕事の両方で使えるもの)だと上で説明しました。そのため、家事按分(仕事で使う割合のみ経費にする)ことになります。
実際100%仕事でしか着用していなかったとしても、税務署からすると、今後私用で着用することは絶対にないのか、仕事終わりにスーツで飲みに行ったりするのはプライベートの範疇ではないのか、といった突っ込みが可能です。
そのため、多くとも購入金額の8割程度の経費計上に留めておくのが無難でしょう。経費計上の相場を把握しておいて、相場から逸脱することのない形で経費にするのがベストです。