IT業界の特にSIerには、偽装請負、多重請負、といった問題が潜んでいます。なんとなく言葉を聞いたことがあって意味もなんとなくはわかっているが、具体的に何が問題なのか、どのようなデメリットがあるのかわからない、という方も多いでしょう。
そこで、多重請負の問題点やエンジニアへの影響について解説します。またこのページでは多重請負について解説しますが、言葉が似ていて、多重請負とも関係のある偽装請負については以下のページで解説しています。
IT業界の偽装請負とは?エンジニアが知っておくべきことを解説
偽装請負と多重請負はセットでエンジニアにデメリットを及ぼしているので、ぜひ両方の意味や影響について知っておいてください。
IT業界の多重請負とは?
多重請負とは、「クライアントから仕事を受けた企業が下請けに仕事を流す、さらに下請け企業がその下請け企業に流す」というように請負が何重にもなる構造のことです。
上の図では3重ですが、これが4重、5重と重なっていくこともあります。上流(元請寄り)になればなるほど大手企業が多く、逆に下請けになればなるほど中小・零細企業が多いです。
多重請負は違法?
多重請負は違法と言われたり、違法ではないと言われたりしています。結論としては、多重請負自体は違法ではありません。ただし、IT業界での多重請負は違法性が認められる場合がほとんどです。
まず上の図のように、仕事を請け負った企業がさらに下請け企業に仕事を流すことは問題ありません。基本的に業務委託契約(請負契約、準委任契約)は多重請負構造でも違法ではないです。
エンジニアに関係する契約の種類について、詳しくは以下の記事で解説しています。
受託、委託、請負、準委任、派遣、エンジニアにとっての違いとは
ではなぜIT業界での多重請負が違法のケースが多いのかというと、「業務委託契約でありながら実質的には労働者派遣契約のようになっているから」です。これを偽装請負と言います。
結果的に多重派遣になっていて、多重派遣は違法です。偽装請負は単体で違法ですが、多重請負は単体では違法ではありません。しかし偽装請負と多重請負が組み合わさることで、より違法性が増すということです。
一応表にすると以下のようなイメージになります。
多重請負 | 合法(業務委託契約ならOK) |
偽装請負 | 違法(無許可で派遣業をしていて、義務も果たしていないため) |
多重請負+偽装請負 | より違法(偽装請負の時点で違法だが、多重請負になることでより違反となる法律が増える) |
多重請負になる理由
多重請負になる理由はシンプルで、「必要なときのみ必要な人員を確保するため」です。たとえば下請け企業がプロジェクトに一切入らない場合、すべての人員を大手企業で賄うことになります。
日本の企業では必要なときのみ人を雇い、不要になったら切るということはできません。つまり不要なときまで多くの社員を抱えなければならないことになるのです。これだと人件費が無駄にかかるので、必要なときのみ人を集めるために下請けを使っています。
次に下請けになる企業にも十分な人員がそろっていません。そこで下請けの企業も必要な人員を確保するためにさらに下請け企業を利用します。
また1次請け企業がすべての下請けに依頼すれば請負は2重で済みますが、それだと1次請け企業の管理負担が大きくなります。管理まで外注化するとなると、結果的に多重請負になります。
エンジニアにとっての多重請負のデメリット
多重請負によりデメリットを被るのは、下請け企業のエンジニアです。下請け企業のエンジニアはどうしてもプロジェクト内での立場が弱いため、無理な納期等のしわ寄せを受けます。
さらに偽装請負のデメリットもあるので、環境はより悪化します。偽装請負の記事については上でもリンクを貼りましたが、以下です。
IT業界の偽装請負とは?エンジニアが知っておくべきことを解説
具体的に下請け企業がどのような状況になるのかですが、以下のようになります。
- 労働時間が長い
- 給料が低い
- 勤務地が変わりやすい
- 労働環境が悪い(PCのスペックが低い、やたらパワハラを受ける、など)
- 大変な割にスキルが身に付きにくい(単純作業の量が多いケースもあるから)
100%上記に該当するわけではありませんが、該当する確率は高いでしょう。
多重請負の下請けだからすぐさま転職すべきというわけではありませんが、自分の現状を理解し、将来や転職のことも一応は視野に入れておいた方が良いかと思います。
そして転職するのであれば、多重請負や偽装請負については理解した上で企業を選んだ方が良いです。